2011年2月12日土曜日

第3回 SFP講演会 ポストODA ー開発ファイナンスの直面する問題と問題解決のためのPPP2.0手法ー

「第3回 SFP講演会 ポストODA ー開発ファイナンスの直面する問題と問題解決のためのPPP2.0手法ー」

日時:2011年1月17日(月)
場所:東京都港区勤労福祉会館
講師:前田 充浩 氏

(講演要旨)

・開発ファイナンスについて、これまでの政府を主体としたODAとは異なる「PPP2.0」という新しい手法を提唱する。
・「PPP2.0」とは、政府のみが開発ファイナンスの担い手であった時代のODAの次に到来する新たな開発ファイナンスの手法であり、政府だけでなく、政府と、インターネット社会の到来によって力を増した一般個人、そして営利を追求する民間私企業というそれぞれ行動原理を異にする三者が開発ファイナンスを担う新しい時代において、有効となるであろうファイナンスの手法である。
・新たな時代の開発ファイナンスのあり方を読み解くためには、担い手である政府、一般個人、そして民間営利企業それぞれの行動原理についての理解が欠かせない。情報社会学こそ、三者の行動原理を理解するための知的な分析枠組みを提供してくれる。
・前田氏による前回の講演では、開発ファイナンスの本質を、複数の政府が主体となり展開される「勢力圏争奪戦」として捉えることで、実態としての開発ファイナンスの過去・現在そして未来のあり方を検討したが、2回目となる今回の講演では、新たに「情報社会学」の枠組みから、ネット社会の到来という時代認識にあった、ODAの次にくる新たな時代の開発ファイナンス手法である「PPP2.0」を提唱する。

講演のポイントは、以下のとおり。


1.時代認識:ネット社会における個人="netizen"・"smart mobs" / 民間営利企業 / 政府 の三者が、三つ巴になって社会が統治されていく、新たな社会の到来 〔開発ファイナンスを包含する 社会Governance全体の大きな時代の変化の動き〕

個人:
 多くの個人が、Face bookなどのソーシャル・メディアを日常生活のなかで用いてコミュニケーションをとるようになったことで、ごくありふれた個人が、社会を統治していく上で大きな行動力を手にするに至った。(例:フィリピン・エストラーダ政権の権力からの引き下ろし、チュニジアにおける政権移行etc.)
情報社会学では、ネットを手にしたことで、社会のなかで大きな行動力・影響力をもつようになった名もない個人の集まり(群衆)を、
"smart mobs"(「賢い群衆」)と読んだり、"netizen (="net" + "citizen")と名づけて注目し、社会のGovernanceがどう影響を受けるかを研究している。


2.社会のGovernanceを貫く3つの原理:「威の原理」(政府)・「富の原理」(民間営利企業)・「智場の原理」(個人)
*参照: 配布資料 P.6 スライドの図 (agenda setting;1.nation states 2.industrial enterprise・・・以下、P.6スライドから抜粋)

社会全体のGovernanceの担い手= 1.政府/国民国家( nation states ) + 2.民間営利企業( industrial enterprise ) + 3.個人( enpowered citizens )

Governanceの担い手が依拠する行動原理= 1.「威の原理」(政府)・「富の原理」(民間営利企業)・「智場の原理」(個人)

1.「威の原理」(政府)
===> 自国の政治的影響力・国家権益(「威」)の追及、という行動原理の上に立って行動する

2.「富の原理」(民間営利企業)
===> 経済的・金銭的利益(「富」)の追及、という行動原理の上に立って行動する

3.「智場の原理」(個人)
===> 個人としての自己のものの考え方・社会の捉え方・Vision(「智」)に、一人でも多くの人が共感・同意し賛同して欲しいという欲求をもって、他者の賛同を求めて行動する

これからの社会の運営・Governanecは、「威」の追及を求めて行動する政府(国家)の振る舞いの(複数政府間の)相互作用のみの上に成り立つのではなく、政府の行動原理である「威」の原理に加えて、ネットによって力を増した(empowered)個人や企業がそれぞれ依って立つ、「智場」の原理と「富」の原理、これら3つの原理が社会のあらゆる領域で互いに重層的に絡まりあって、互いに影響を及ぼしあうなかで、全体として営まれていくものと思われる。

3.新たな時代の開発ファイナンス:参加動機(意欲)として、3つの主体が互いに異なる3つの動機をもって参加するようになる

さて、ここで開発ファイナンスに話を戻すと、開発ファイナンスにおける資金の出し手としても、政府だけでなく、個人と民間企業がネットの到来により、大きな存在感を増しており、それぞれ上で確認した3つの行動原理に貫かれて行動していくであろう。

民間営利企業:ファイナンス・ビジネスの機会の追及という目で、開発ファイナンスを捉えて、開発ファイナンス市場に参入する。
個人:政治的権益(勢力圏)を求めるのでも、投資による金銭上の見返り(投資リターン)を求めるのでもなく、資金の出し手としてアクセス可能な複数の開発ファイナンス案件がそれぞれ、ファイナンス先(の社会なり個人etc.)にもたらすよい結果について、どのような非金銭的な価値(個人の主観的・内面的な価値の基準に照らした価値)を内包しているか、に着目して、お金を出す・出さないの選択的意思決定を行う参加者として、開発ファイナンス市場に参入する。

☆ 証券化(securitization)という金融技術がカギ:
 開発ファイナンスの金額は、1案件あたり数千億円規模。これまでは政府だけが資金の出し手であった。しかし、すでに民間金融ビジネスで一般的となった証券化の手法を用いることで、数千億円規模の資金(開発ファイナンス)需要を、証券で小口化して個人に提供することで、ごく一般の個人が資金の供与者として開発ファイナンスに登場してくることが可能になった。

4.開発ファイナンスの需要と供給;ODA枠組みによる政府のファイナンス供与だけでは、需要に追い付かない ⇒ 個人と企業からの供給により需要はまかなえる(開発ファイナンス需給の一致)

開発ファイナンスにおける資金の借り手が求める3つの要素=ファイナンス需要の3つの要素:
① 資金の量(必要な額のお金を貸してもらえるか?) ② 債務の持続性(供与されたお金は返済可能?) ③ 資源配分性(借りたお金は借り手の国で本当にお金を必要とするところに届くのか?)

開発ファイナンスの質の評価尺度:需給の一致はどれだけ達成されているか?

〔参考〕
国家間ファイナンス資金フロー勘定の定義区分= ODA(=grant + loan + technical assistance) + OOD (Def: ODAより低利の融資)+ PF (Private Flows: No definision/ i.e. ビル・ゲイツ財団) *定義が極めてあいまいで、根拠が不明。なぜ、資金フロー勘定であるODAにtechnical assistanceが含まれるのか、説得力のある理由づけがなされていない etc. 

☆いま、PF区分における資金フロー金額↑
☆上でみた資金勘定のうち、今日、ODA勘定に計上される資金フローの金額は、全体の20-30% 程に過ぎない。
⇒ "ODA"を、開発ファイナンスをめぐる議論の中座に据えるのは、もはや実態にそぐわない。

(評価)
これまでの・・・政府(国家)主体の開発ファイナンス

① 資金の量: 必要とされる金額のすべてを政府は貸し手として提供できない
(発展途上国におけるインフラ資金需要は、年々増加の一途をたどっている)
② 債務の持続性: 債権国会議
③ 資源配分制:債権国政府から、債務国政府に手渡されたお金は、債務国政府にとって、政治上 重要な領域に重点的に資源配分されて届けられるが、経済的にみて、本当にその国のなかでお金を必要とする領域にお金が配分されているかどうかは、保証されない。



開発ファイナンス全体の占めるODAの比率は20-30%程であることに加えて(実績ベースでのODAの全体に占める比重の低下)、
ファイナンスの手法としても、本質的に、政府対政府のファイナンスは、真に資金を必要としているところに資金がまわることが保証されないというため、問題を抱えている。


〔問題解決:PPP 20.の提唱〕

"PPP"とは? ・・・ PPP = Public Private Partnership
1)Public (政府)と、Private(市民(netizen, empowered citizen)+企業)が、権力関係の大小によってではなく、役割の違いに応じて、協力関係のなかで果たす役割が決定されるPartnershipによる、開発ファイナンスの需要者に対する供与の手法
2)   役割分担のあり方: まず、市民と企業が、それぞれ、智場の原理/富の原理に基づいて、資金需要国に資金を投じる。
            そして、資金需要国が必要とする資金の絶対額のうち、市民と企業でまかないきれない残余の部分( "viability
            gap"の部分)のみ、政府が資金の出し手となる。
            具体的なdef: 個別の開発ファイナンス案件毎に、投資参加企業に、当該案件からの回収リターンの赤字額(見込
            み)を算出させたその見込み価額。(天下り的に政府が算出するのではなく、民間企業側が算出して、政府はそ 
            の数字を受動する立場)

PPP2.2;政府(Public)と、企業と市民(Private)のうち、すべてを(empowered /netizen)市民に任せる手法

開発ファイナンスの供与資金区分 = Debt (資金貸し出し)+ Equity(資本出資)+ Viability Gap (その他残り。Residual)

-Debt;証券化して小口化して、資産保有量としてはごくありふれた普通の市民のうち、「智」の点から資金をその案件に投じることに価値を見出してくれた個人の資金提供者が証券化債権(資産担保証券 collateral backed security)を購入
-Equity;発行単元株数を小口化して、資産保有量としてはごくありふれた普通の市民のうち、案件に賛同する人々によって出資される
-Viability Gap: 上で賄いきれない金額=政府が負担する

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(質疑応答)

Q: ファイナンス投資の形態として、すでにマーケットで定着している社会責任投資( Social Responsibility Investment: SRI )とPPP2.0 /2.2との相違点は? また、PPP2.0を社会のなかで実行していくにあたり、すでにEU/米国/日本で巨額な資金運用実績を築いている既成のSRI参加者たちとの戦略的な連携の可能性などもしあれば、所見を伺いたい。

A: SRIよりも、PPP2.0/ 2.2の方が、カバーする範囲がはるかに広い。
  SRIの投資対象、すなわち、Social Responsibilityの要件の中身は、投資対象案件が自由や民主主義、そして人権といった価値の増進に寄与する度合いがいかほどか、という点に過度に集中し過ぎているきらいがある。SRIも社会のなかで意義のある投資形態ではあるが、しかし、現実に資金を必要としている人々に、お金を供与して、その地域が発展することによって達成される非金銭的な実現価値の内実は、
SRIが想定する価値に局限されるものではないはずだ。
 よって、PPP2.0はSRIとは切り離して考えているし、その実現にあたっても、SRIとは別に展開していくことを想定している。

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Q. 前田氏は、PPP2.0構想の発表・旗揚げを、SAIS( ジョンズ・ホプキンス大学高等戦略問題研究大学院 )主催のセミナーで行われたとのことであるが、フロアーの反応や、コメント、アドバイス、協力の申し出その他、反響はどうであったか?

A. 米国での発表ということもあり、ファイナンス投資における資金募集の名目として、伝統的な金銭上のリターンとは異なる、非金銭上の価値への賛同(「智場の原理」)を前面に出していくファイナンスのあり方については、疑問視する向きもあった。
 米国の政策研究機関主催のセミナー参加者ということもあり、投資は経済リターンの追及である、という価値観の強い人たちが多かったのではないか。

-Q; では、発表の場を欧州に移して新たに提唱すれば、経済活動に対する米国的な価値観とは一味また違った反応も、フロアーからは得られるのかもしれませんね?

-A; そうかもしれませんね。

(以上、記録担当責任者:SFP 八島浩文)

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