2010年12月5日日曜日

第2回SFP講演会報告

12月2日(木)に、第2回SFP講演会「前田充浩氏と語る―国際社会における日本の国益―」が開かれました。平日の夜だというのに30名ほどの方々にご参加いただきました。
 

【日時】2010122日(木) 19002100
【場所】貸会議室プラザ八重洲北口
http://www.ginza-renoir.co.jp/myspace/puraza089.htm
【定員】30
【参加費】1,500


 内容の概要
テーマ 金融地政学: 開発ファイナンスを有効ツールとする勢力圏争奪戦を読み解く
問題提起
1997年以降、日本は発展途上国開発における勢力圏獲得能力を大きく落としている。
(1)   勢力圏獲得に重要な役割を果たす発展戦略(イデオロギー)について、判然としない。
(2)   日本の持っている、勢力圏争奪戦の有効なツールである開発ファイナンス、円借款制度は、時代遅れになっており、劣化しつつある。
主張
(1)  発展途上国に対して自信を持って唱道する発展戦略を持たなければならない。
(2)  現下の発展途上国にとって、他国、他の主体が提示するファイナンスよりも観浴的な、現存する金融技術の“いいとこ取り”のできる新たな開発ファイナンスの仕組みを構築しなければならない。
方策 
 研究会2回目を開催しますので、次回ご参加ください。
 次のページより、概要紹介です。



金融地政学(Financial Geopolitics)とは
 金融地政学とは、開発ファイナンス(開発援助(ODA)、輸出信用等)を大国による勢力圏争奪戦の有効ツールとみなし、開発ファイナンスを有効ツールとする勢力圏争奪戦の在り方について主として国際関係論の方法論によって分析する考え方の枠組みである。
 開発経済学/開発援助論では、主たる関心は、ファイナンスを受けた発展途上国における経済社会開発に関する効果であるが、金融地政学は開発ファイナンスを通じた国家間の勢力争いに関心を置く。
 国際的には、20094月にSAIS(ジョンズホプキンス大学高等国際問題研究所)公式セミナーで旗揚げされた。

 近代世界システムは、大国(中核、先進国)とそれ以外の地域(周辺、発展途上国)の2つの集団によって構成されている。大国は、周辺において、勢力圏奮戦を展開する。これは近代世界システムの特徴である。同時に、発展途上国の中から新興国が台頭し、台頭した新興国は先発国の既得権益を保持するために造られた国際レジームのルールの変更を要求するため、先発との間で絶えず対立が発生する。
 このような近代世界システム上の対立において、『開発ファイナンス』は、大国にとっては勢力圏争奮戦において用いているツールであり、新興国のとっては、新たに勢力圏争奪戦に参画する際の有効なツールである。
 新興国は勢力圏争奪戦への新規参入をはたすために、先発国よりも強力なツール(周辺にとってお得感の高い開発ファイナンス)を開発する。先発国は既得権益を維持するためには、新興国のツール開発を抑える必要があるため、開発ファイナンスに対する規制をつくるための国際レジームが構築される。ゲーム理論的な発想に立てば、開発ファイナンスのツール開発は永遠と周辺にとってお得感の高い開発ファイナンスを開発しつづけることがナッシュ均衡となる『チキン・ゲーム』となるため、プレーヤーにとっては開発ファイナンスの在り方や給与に規制をかけるための国際レジームを構築することが有効であると考えられる。

 ちなみに、勢力圏とは、特定の先進国に対して「投資のパラダイス」を提供する発展途上国のことである。「投資のパラダイス」とは、(1)生産コストが安い、(2)一定水準に上のインフラ整備がなされている、(3)特定の先進国企業の投資について、特に気を遣い、無理を聞く、という3つの条件を備える発展途上国である。
 途上国側からしても、特定の先進国に対して「投資のパラダイス」を提供し、勢力圏に入ることは有利であるので、自ら進んで勢力圏に入ろうとする。開発ファイナンスが与えられると、インフラ整備が進み、また投資ラッシュが進むという途上国にとっては急速な発展を遂げるためのいい機会だからである。途上国は複数の先進国に、自らを勢力圏に取り込む競争を仕掛けることができる。よって、勢力圏争奪戦の主要なイニシアティブは発展途上国側にあると考えられる。
 勢力圏争奪戦とは、したがって、発展途上国政府に対して、より良い条件の開発ファイナンスの仕組みを提示し、それにより、外資政策上特定の先進国を優遇しようと決定させることである。

 開発ファイナンスでの勢力圏参入と、それに対抗する国際レジーム創出とは具体的にはどのようなことか?
 例えば、近代最初の国際レジームは1934年のベルン協定である。
英国が1919年、ベルサイユ講和条約で、商務省内に輸出信用局を創設。欧州主要国は、英国を模倣して、同様の輸出信用制度を開始。開発ファイナンス給与のチキン・ゲームが発生したため、1934 年、イギリス、フランス、イタリア、スペインの輸出信用機関によってベルンユニオン(国際輸出信用保険機構:The lnternational Union of Credit and lnvestment lnsurers)の設立会合がスイスのベルンで開催されました。ベルンユニオンは、輸出信用保険や投資保険に関連する共通問題について、世界各国の輸出信用機関(Export Credit AgencyECA)が相互に情報交換を行う場である。
このような、先発国と新興国の対立と国際レジームの創出というパターンが繰り返されている。

それでは、お次は、日本の開発ファイナンスについてです。


日本の開発ファイナンス
日本は1980年代に勢力圏争奪戦に「タイド条件付円借款」という開発ファイナンスで参戦。先発国OECD諸国と新興国日本の間で対立が生じた。タイド条件があれば、円借款の案件を日本企業が必ず受注できるが、アンタイド条件の場合には、国際競争入札にかけられる。
日本の「タイド条件付円借款」への対抗策として、トルコのボスポラスに第二の橋を架ける案件を契機に、先発国である英国のサッチャー首相が政治化。そして、日本包囲網が引かれる。1986年春、フランスのイニシアティブで欧州が割引理計算方法変更を提案。フランスは、混合借款規制問題で、「軍資金」を開始した米国レーガン政権と妥協する必要に迫られ、タイド・ローンの規制を強化しつつ、かつ自国に影響が及ばない方法を考案する必要があったためである。フランスの提案は、タイド借款規制に関する譲許率(CL: Concessionality Level)の計算における割引率を、従来のGE(Grant Element)方式における一律10%から、市場金利(国債利回り+マージン(通常1%))に変更するというものであった。この規制により、タイド・ローン給与国で低金利国は日本だけであり、日本のみがタイド・ローンを激減させる義務を負った。当時のフランスは高金利国であり、国債利回り+マージンは10%に近く、計算方法変更による影響は軽微であった。
1986年秋、レーガン大統領より中曽根首相へ、割引率計算方法変更提案受け入れ要請。そして、決定的なジャパン・バッシングが起こる。1987年春、割引率計算変更を骨子とするOECD輸出信用アレンジメント、ワレンパッケージ合意成立。これにより、日本のタイド条件円借款給与は極めて困難に。
1988年、日本はODA第四次中期目標により、アンタイド化へ政策変更。日本の戦略は、(1)アンタイド条件でも一定割合を日本企業が受注できれば、円借款の量を拡大していけば引き続き相応の輸出振興効果が得ることができる(量的拡大)、(2)1985年プラザ合意以降の円高により日本企業の途上国に対する直接投資が激増。発展途上国の投資環境整備が進むのであれば、アンタイド条件でも意味がある(投資環境整備政策)、(3)1980年代後半以降、特にASEAN諸国を対象に、日本が第2次大戦後日本国内で実施してきた開発主義型産業政策を直裁に移植しようとする政策を展開し始めたためにODAを使わない開発が可能(アジア工業化政策)であり、アンタイド化による弊害は少なく、それよりも先発国に加入することが有利であるというものであった。
1991年、OECD輸出信用アレンジメント、ヘルシンキ・パッケージ合意により経済セクター案件への一切のタイド条件ODA給与の禁止。このとき、アンタイド化推進中の日本は規制導入賛成に回り、米国とともに欧州を説得した。1996年、アンタイド化率100%を達成した。

 ところが、1997年にふたたびタイド化へ政策を転換する。
 1990年代、国際競争入札における日本企業の落札率は10%未満となり低い水準を推移し、また量的拡大は困難になり、アンタイド条件円借款による輸出振興が極めて困難になった。このため、円借款による輸出振興のためには、新たなタイド条件円借款の制度を創出することが必要となった。案件を、設計部分(エンジニアリング・サービス)と建設本体部分とに分割し、前者をタイド条件、後者をアンタイド条件にすることで、全体の90%をアンタイド化でき、かつ設計を日本企業が有利な仕様にしておくと、本体部分で国際競争入札をかけても相当割合で日本企業が落札できるようにした。しかし、OECDで問題視され、議論の結果日本は孤立し、20029月タイド・ステータスの一致(タイドータイド、か、アンタイドーアンタイドを選ぶ)を表明した。

 1997年以降、地球環境対策案件や公害対策案件、人材育成・中小企業育成支援等の分野を対象とするタイド条件円借款制度を次々と設立し、拡大を目指しているものの、OECD輸出信用アレンジメントのヘルシンキ・パッケージ合意による規制のために、大幅な増大は困難になっている。


問題提起
1997年以降、日本は発展途上国開発における勢力圏獲得能力を大きく落としている。
(1)   勢力圏獲得に重要な役割を果たす発展戦略(イデオロギー)について、判然としない。
(2)   日本の持っている、勢力圏争奪戦の有効なツールである開発ファイナンス、円借款制度は、時代遅れになっており、劣化しつつある。
主張
(1)  発展途上国に対して自信を持って唱道する発展戦略を持たなければならない。
(2)  現下の発展途上国にとって、他国、他の主体が提示するファイナンスよりも観浴的な、現存する金融技術の“いいとこ取り”のできる新たな開発ファイナンスの仕組みを構築しなければならない。
 

Q&A
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Q. 植民地の「宗主国」は、5年スパンで交代しているのか?そんなに短いのか?

A. そうです。複数の国がひとつの「投資のパラダイス先」を自らの勢力圏のうちに取り込もうと凌ぎを削ってます。
    このため、どんなにがんばっても、10年も20年もある国が「宗主国」の座を維持し続けるのは難しいです。

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Q. 「宗主国」でいられる期間がそんなに短いと、その短期間で、「宗主国」になるために現地の政府に支払ったコストを回収するのに十分なリターンを得ることはできるのでしょうか。

A.  よい質問ですね。十分なリターンを回収できるかどうかは、ケースによってまちまちです。かけたコストを回収できる場合もあるし、回収できずに地位を他の国に奪われれしまうこともある。

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Q.  ある地域を自国にとっての「投資のパラダイス」先にするためには、現地の政府にとって、他の国よりも魅力的な開発ファイナンスの融資条件を提示できるかどうかにかかっている。このため、いかによりよい条件を提供できるのか、自国のファイナンス・スキーム組成能力が勝負の鍵を握るとのことでした。そこで、各国は知恵を絞っていままでになかった魅力的なファイナンス・スキームを考案するわけですが、これって、すぐに他国に真似されませんか?折角考えたのに、すぐに真似されて、ライバル国に使われてしまう・・・

A.   真似されるまでには、時間がかかります。真似ようとしても、細部を研究するのに時間がかかりますから。ライバルが時間をかけている間に、スキームを考えた国は、十分なリターンを味わいつくしてしまおうと頑張るわけです。

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Q. 「投資のパラダイス」を手にして利益を得るのは、国なんですか?それとも、その国の民間企業なんですか?

A.  企業です。そして、企業が稼いだお金は税金としてその企業が所属する国の税収になるので、その国の利益にもなります。
     ただ、何をもって、ある企業の国籍を判断するのか。これは難しいテーマです。今回の講演会と私の本では、この点はあえてぼかしてあります。何をもって自国の企業とするのかというテーマは、じっくり考える必要がある問題ですね。

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Q.  日本は「植民地」の争奪戦に負け続けているとのことですが、敗因は何ですか?

A.   ファイナンス・スキームを考え出す力の弱さです。

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Q.  円借款は、もはや古くて有効ではない開発融資の方法であると言われていましたが・・・

A.  それはあくまでも、「植民地」争奪戦を戦う上での有効なツールとして、の話です。発展途上国に対する開発援助の方法としては、円借款はいまも有効です。ですので、私は円借款による開発援助そのものを否定しているのではありません。

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Q.  融資される側にとって魅力のある開発ファイナンスの提案としては、償還期限 長期・低利の融資があるとのことですが、こんな条件でお金を出したいと思う民間のプレイヤーはいるのですか?

A.   生命保険会社は興味を示しますよ。生保は、長期の資産運用期間で、低リスク・低リターンの低利の投資を好みますから。

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方策
 次回の研究会で行います。
 次回の内容を少しだけスライドでご紹介いたします。
 ご興味のある方はぜひご参加ください。




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