2010年11月7日日曜日

第8回定例会レビュー『国家とパワー』

第8回(2010年10月)定例会レビュー『国家とパワー』(迫田)


SFPでは「『一目置かれる』日本をつくろう!」を目的にしているが、これまでの議論を聞いていると、国家の力の半分であるソフトパワーの側面しか議論されていないように思う。ジョゼフ・ナイらが『スマートパワー(smart power)』という概念で表しているように、国の力とは、目的を戦略的に達成するために、ハードパワーとソフトパワーをうまく組み合わせるそのコンビネーションにあるのではないか。ハードパワーとは他国の外政・内政に影響を与える軍事力・経済力のことである。日本は第二次世界大戦後、国民意識の中に「軍事力を持つことは必要ない」という考え方が浸透したためにその軍事力は小さい。他方、経済力に関しては、これまで世界第二の経済力を誇ってきたが、これからは縮小していくことは免れない。つまり、経済力が縮小すると、直接的にハードパワーが縮小していくことになる。

今回は、軍事力の観点から、その力の向上について議論したい。

日本は憲法で交戦権を認めていないために、軍隊を持つことが認められていない。そのため、自衛隊は他の公務員と同じ、“公務員”として扱われている。それは組織構造として、問題が多い。公務員と同じく、年功序列の定年制になっているため、自衛隊が優秀な人材輩出の機会になりえない、つまり優秀な人材が集まらない構造になっているということである

他の軍隊を持つ国では優秀な人材が軍隊の幹部に集まるように工夫をしている。たとえば、アメリカ。アメリカの軍隊は公務員ではない。いつでも軍隊を離れることができる。退役を広報活動の一環として歓迎しており、退役幹部軍人の労働市場価値は非常に高くなっている。また、すべての幹部が運用のゼネラリストになることが強要されるわけではなく、個々、特定の分野に専門を特化できることも労働市場価値を高める一つの要因になっている。たとえば、Ustreamの開発者はウェストポイントの出身であり、将校を経た後に、現在IT会社にいる。一般兵に関しても、「軍隊に入れば高等教育をうけることができます」というのが宣伝のうたい文句である。軍隊は、労働市場への一定の価値づけになることがここからも言えよう。一方、中国では、儒教文化においては軍人の評価は低いため、給料を高額に設定することで優秀な人が集まるようにしている。

日本は、そもそも軍隊を受け入れない国民意識の土壌があるうえに、給料も低い。人材の流動性も低い。つまり、組織構造として、自衛隊に優秀な人材が集まらない結果を生んでおり、それは必然的に軍事力の低下を招いている。

それでは、この悪循環をどのように解決していけばいいのか?

一つの方法としては、金銭的インセンティブの付与、すなわち、給料を上げることが考えられる。
もう一つの方法としては、軍事産業へITやバイオ産業などの多様な産業が参入することを国が政策的に後押しすることである。日本は重工業のみと言っていいほどの限られた産業が軍事産業を担っている。しかし、これからは重機やハードな武器だけが軍事力ではなく、ITやバイオなどのある意味ソフトな力が物をいう時代である。それらの産業が軍事産業に参入することにより、日本の軍事技術は高まり、また軍事に精通した退役自衛官の活躍できる労働市場も若干は増えてくる。新たな分野で専門性を極める自衛官の必要性も出てきて、自衛官への教育の質もさらなる高い期待値が求められる。このことは、退役自衛官の労働市場価値を高めるだけではなく、優秀な人材が自衛隊には必要である、という幹部自衛官の自尊心を高めることにもつながろう。

ただし、限度がある。軍事産業への新規参入を阻んでいるのは武器輸出三原則である。この原則を考えないわけにはいかないが、そこには慎重さが必要である。武器輸出三原則を廃止することは、結果として軍事産業のために戦争を起こさなければならない、という軍事産業の自己目的化を招きかねない。それは国益のためにならない。よって、武器輸出三原則に抵触しない形で、多様な産業の軍事産業への新規参入を実現させる仕組みを考える必要がある。一つの考え方としては、軍事産業の拡大に目的を設定するのではなく、あくまでも軍事技術の向上と人材流動性の確保の観点から政策を投じるという目的の設定である。その他に関しては、今後、議論を深めていきたい。

1 件のコメント:

  1. 軍事力はそれはそうと必要だけど、他方で民間の相互依存関係を強めていって、戦争の起こしにくい基盤を創っていくのが大事だと思う。民間外交が盛んになるといいし、わたしも個人的に世界中にたくさんの友達を作ろうと思います♪ そのだ

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